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【前編】サルの脳に寄り添う、柔軟な電極アレイ

2025.07.11

── フレキシブル基板が切り拓いた、最先端の脳科学研究

最先端の脳科学研究では、脳の表面に電極を直接設置し、脳内で起こる微細な神経活動を記録する「ECoG(皮質脳波)アレイ」の活用が広がっています。これは、頭皮の上から測定する従来の脳波(EEG)よりも高解像度かつ高精度な信号を得られる手法であり、認知機能や運動制御のメカニズムを解明するための重要な技術とされています。

とりわけ、霊長類(サル)のように複雑な構造を持つ脳への応用には、高度な設計と製造技術が必要です。今回ご紹介する事例は、国内大学との共同研究により、ニホンザルの脳内にECoGアレイを埋め込み、脳の内側・外側・脳溝にまたがる広範囲の神経活動を同時に記録するという非常にチャレンジングなプロジェクトでした。

このアレイの心臓部にあたる高密度フレキシブル基板の設計・製作を、サーテックが担当。その技術力と対応力が評価され、プロジェクトの成果は、国際的な科学ジャーナル「Journal of Neuroscience Methods(2014年)」に掲載されました。

 

 

脳の凹凸にフィットする“しなやかさ”と“精度”の両立

今回のECoGアレイは、脳の外側(外側面)に加え、中央溝や海馬周辺といった脳の内側(内側面)、さらには脳の谷間である脳溝(側溝面)にも届くよう設計されています。これにより、従来記録が難しかった領域からも神経信号を取得できるようになり、研究の精度と広がりが格段に向上しました。

ただし、この構造を実現するには、極めて柔軟でありながら、変形せずに精密な形状を維持できる基板が必要です。サルの脳は人間よりも小さく、複雑な曲面を多く含んでいるため、ただ柔らかいだけでは不十分で、「的確な設計」と「ミクロン単位の再現性」が要求されました。

そこでサーテックでは、材料選定から厚み、屈曲性、耐熱性、そして生体適合性に至るまで、複数の要素をバランスよく組み合わせたフレキシブル基板を設計。研究者と対話を重ねながら、個体ごとに合わせたオーダーメイド対応で、アレイの試作・調整・実装までを一貫してサポートしました。

 

「やさしく密着し、確実に記録する」技術

この基板は、単なる部品ではありません。脳という極めてデリケートな器官に対して「負荷をかけずに密着し、安定して信号を記録する」という、“やさしさ”と“正確さ”の両立が求められる特別な領域です。

研究者からは、「形状やフィット感だけでなく、記録時のノイズの少なさ、接触安定性の高さも非常に重要」との声をいただき、サーテックの技術によってこれらの課題をクリアすることができました。

次回の後編では、信号品質を左右する配線技術の工夫や、この研究が学術界に与えたインパクトについてご紹介します。